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附録1:「女神のチャージ」オリジナルと継承

W.E.リデル「ジョージ・ピッキンギル資料集 英国伝統魔女宗9カヴンとガードナー、クロウリー」東京リチュアル出版(2014)


以下に収録するのは、第15章などで論じられるガードナー派ウィッカ(および傍系)で用いられる式文「女神のチャージ」2種の翻訳である。

 「女神のチャージ」のルーツははっきりとしないが、本文で論じられるように、アプレイウス「黄金の驢馬」Book XI 1-4の光景を、リーランド「アラディア」とクロウリー「法の書 Liber AL vel LEGIS」「自由の法 The Law of Liberty」からの引用で換骨奪胎したものがその原型であったとみていいだろう。以下に収録する「クロウリー・ガードナー」バージョンは、最も初期の手稿にあるものであり、ヴァリアンテが書き換える以前のまさに「チャージの元像」といえるものである。(Kelly 1991 p53 )

 続いて収録した「ヴァリアンテ傍系 – 作者不詳」バージョンは、谷崎榴美が某カヴンの兄弟より得たものであるが、おそらくはネットなどに放流されているものではないかと思われる。この原文はヴァリアンテ・バージョンとほぼ等しいのだが、一人称の女神の語りは三人称に変更され、それに伴い冒頭と中程の短いパッセージが割愛されている。訳出にあたっては「ガードナー/クロウリー」バージョンとの対比も鑑み、よりニューエイジ的な雰囲気と親しみやすさを湛えた口語訳としたが、一見して受ける印象以上に原文に忠実に訳している。興味のある向きはヴァリアンテ版原文と照らし合わせてみられることをお薦めする。

 この他によく知られているバージョンとしては、カリフォルニアの魔女スターホークがヴァリアンテ・バージョンを元に書き直したものが「聖魔女術・スパイラルダンス」(スターホーク著 / 鏡リュウジ、北川達夫翻訳 / 国書刊行会 1994)で翻訳紹介されており、原文はネットで読める。スターホークは当初「チャージ」がヴァリアンテによるものであることを知らずに使用していたというから、「聖魔女術」が執筆された遅くとも1970年代半ばには「チャージ」は誰のそれということなく広く伝播していたものと思われる。

 その原型をまとめたクロウリーとガードナーも、その起源をピッキンギル派ノーフォーク・カヴンの「魔術的追想」や「グレコ・ローマン古典密儀」にあるとしている。「チャージ」はそもそもが、詠み人知らずの名も無き祈りとして、子守唄やブルースのように様々に変容しながら歌い継がれていくものだろう。
 「女神のチャージ」はまずもって、朗唱するものである。読者諸氏も是非、声に出して読み、そのリズムと響きに身を任せ、官能的な芳香とともに顕現する「内なる女神」との邂逅を味わって欲しい。

BVA


女神のチャージ

The Charge of the Goddess
(クロウリー/ガードナーによるオリジナルヴァージョン)

アルテミス、アスタルテ、ディオン、メルジーン、アプロディーテ、
幾多の名をもて呼ばれたる古き御母のそのことば
スパルタはラケダイモンに若人のただしき贄は捧げられたり
密に満ちたる月の夜に集い崇めよ我が霊を
求めよ我を魔女の女王を
秘密の魔法の深みこそ悦び焦がれる汝らに
我は明かさん知られざるもの
汝ら奴隷にあらざればまことの自由を証すべく
儀式を捧げよ生まれたままに
男も女も分け隔てなく
踊れ歌えよ食べよ奏でよ愛し讃えよ我が方に
我は恍惚、地上の悦び、ただ愛だけを我が法に
最も高き真の汝を清く保てよ弥栄に
地上にありてなお満ちるエリクシールを求めるならば
開け秘密の我が扉、汝を停め逸らせるものなし
謡い求めよ、恍惚を、震える大地を、我に、我にと
我は深き恵みの女神。汝の知らざる悦びを
汝に与えん、いつかではなく地上にありて生ある今に!
汝に与えん、死に往く時も全き休みと恍惚を
どんな犠牲も我は求めぬ
耳を澄ませよ汝らの星の女神のそのことば

“あぁ汝、汝を愛す、汝を求める
青ざめつまた紫に、隠されつまた艶やかに
紫色の悦びの、深みの深みに酩酊し
あぁ汝、汝を愛す、汝を求める
翼もて汝の内なるひかりの蛇の
とぐろ解いて今、来れ
我はすべての男と女と星の内にて燃えたつ炎
汝の内なるまことの汝を悦びの波にさらわせん
正しく楽しく美しく、すべての愛と悦びを
それこそまことの我が儀式
美と強さ、けだるい笑い
力と炎は汝の内に”

汝、長旅の果て我が下に来るに非ず。汝曰く

"永えに我が身を焦し喚びし汝は、汝は我とともにあり
永えに、はじめの時より"

我を求めし汝らの、欲望の果てに、我はあり

From:
Kelly, A Crafting the Art of Magic:Book I (Llewellyn USA 1991)


女神のチャージ

The Charge of the Goddess
(ヴァリアンテ傍系 – 作者不詳)

願いをかなえたい時は、月に一度、できれば満月、
秘密の場所に集まって、魔女の女王を崇めましょう。
あなたが集うその場所で、彼女が教えてくれますよ。
あなたの知りたいその魔法、あなたの知らないその秘密。
あなたは奴隷じゃありません。あなたの自由を証しなさい。
儀式は裸で行います。踊って歌って祝いましょう。
愛の音色を奏でましょう。全ては彼女を讃えるために。
彼女のこころがうっとりすると、地上に悦び溢れだす。
彼女はあなたもみんなのことも、世界の全てを愛しています。
まことのあなたを清く保って、あなたはいつでも頑張ります。
誰もあなたを止められない、あなたは何にもくじけない。
彼女の扉をこっそり開くと、そこは永遠、春の国。
彼女のカップに溢れ出す、いのちのワインをいただきましょう。
ケリッドウィンのコールドロン、 聖なる杯、おわりなし。
彼女は恵み深き神、心に悦び授けます。
この世にいながら、ずっと消えない、こころの知恵を授けます。
終わりを超えて、優しく楽に、みんなと再び出会います。
犠牲なんか、いりません。みて、彼女は全ての生みの母。
彼女の愛は溢れ出し、大地をすみずみ濡らします。
緑の地球の美しさ、白いお月さまと星、
きれいで不思議なお水を飲んで、あついこころに炎を灯す、
彼女があなたを喚んでいます。さぁ、いきましょう、
彼女のもとへ。
彼女は自然のうちなるこころ、宇宙に命を授けます。
すべては彼女から生まれ、すべては彼女に戻ります。
神さまも人も彼女に恋し、こころが無限に開かれます。
悦びふるえて讃えましょう。愛と目眩が彼女の儀式。
強く、優しく、美しく、誇りをもって慎ましく、
楽しく、そしておごそかに。
あなたのこころのもっとも奥で。
彼女を探し求めるならば、ほんとにほんとに求めるならば、
秘密を教えてあげましょう。あなたの奥を探すのです。
あなたの外ではありません。それがあなたの秘密です。
みて、
彼女はずっとそこにいて、
あなたの果てに、輝きます。

 

From:
W.E.リデル「ジョージ・ピッキンギル資料集 英国伝統魔女宗9カヴンとガードナー、クロウリー」東京リチュアル出版(2014)


 

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